労働基準法2019.04.22(月曜日)
働き方改革関連法により、労働時間に関する制度について、関連する法律で大幅な改正が行われ、平成31年(2019年)4月1日から順次施行されることになりました。
まずは全体像をみておきましょう。
法律 |
中小企業以外 |
中小企業 |
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労働基準法 |
時間外労働の上限規制 |
平成31年(2019年) |
令和2年(2020年) |
・年次有給休暇の時季指定義務の創設 ・フレックスタイム制の見直し ・高度プロフェッショナル制度の創設 |
平成31年(2019年) |
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中小企業に5割以上の割増率適用(月60時間超えの場合) |
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令和5年(2023年) 〔猶予の廃止時期を明記〕 |
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労働安全衛生法 ・労働時間の把握の実効性確保など 労働時間等設定改善法 ・勤務間インターバルの努力義務 |
平成31年(2019年)4月1日 |
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パートタイム労働法、労働契約法 ・短時間・有期雇用労働者について、正規労働者との不合理な待遇差を禁止(同一労働同一賃金) |
令和2年(2020年) |
令和3年(2021年) |
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労働者派遣法 ・派遣労働者について、派遣先の労働者との不合理な待遇差を禁止(同一労働同一賃金) |
令和2年(2020年)4月1日 |
そして、平成31年(2019年)4月1日から施行される、規定は以下のとおりです。
①36協定による時間外・休日労働に関する改正(労働基準法) ②年次有給休暇に関する改正(労働基準法) ③フレックスタイム制に関する改正(労働基準法) ④労働条件の明示の方法に関する改正(労働基準法) ⑤高度プロフェッショナル制度の創設(労働基準法) ⑥その他(労働安全衛生法)(労働時間等設定改善法) |
それでは今年度の主要な改正点のポイントをみていきましょう。
時間外労働の上限規制が法律に規定され、上限規制違反についての罰則も設けられます。
<時間外労働の上限規制の全体像>
㊟ 法律による上限【例外】
① 時間外労働+休日労働の時間が単月で100時間未満
② 時間外労働+休日労働の時間が複数月(2~6か月)平均で80時間以内
③ 時間外労働の時間が年720時間以内
★ 上記の①②に違反した場合は、罰則(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)が適用されます。
この改正においては、36協定の協定事項や限度時間を法律に規定するなど、規定が厳格化されました。
改正前 |
改正後 |
36協定の協定事項は厚生労働省令に規定(限度時間を超える時間外労働が認められる特別条項は、限度基準(告示)に規定)。 また、限度時間も限度基準に規定。 〔協定事項の主要な変更点〕 ・1日、1日を超え3か月以内の期間*1および1年について、延長できる時間を協定 ―
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〔限度時間の変更点〕 ・1週間=15時間〔14時間〕 ・2週間=27時間〔25時間〕 ・4週間=43時間〔40時間〕 ・1か月=45時間〔42時間〕 ・2か月=81時間〔75時間〕 ・3か月=120時間〔110時間〕 ・1 年=360時間〔320時間〕 |
36協定の協定事項は、限度時間を超える時間外労働が認められる特別条項も含め、法律(一部厚生労働省令)に規定。 また、限度時間も法律に規定。 〔協定事項の主要な変更点〕 ・1日、1か月*1および1年について、延長できる時間を協定
・単月100時間未満、複数月平均80時間以内の要件を守る旨のチェックボックスを創設 ・特別条項を定める場合、対象と労働者に対する健康・福祉確保措置*2を講ずることを協定 〔限度時間の変更点〕 ― ― ― ・1か月=45時間〔42時間〕 ― ― ・1 年=360時間〔320時間〕 |
〔 〕は、1年単位の変形労働時間制(3か月超え)の対象者の限度時間
*1 改正前は、例えば、2か月で81時間といった協定が可能でしたが、改正後は、1か月で45時間といったように、必ず「1か月」について協定をする必要があります。
*2 この健康・福祉確保措置の実施状況については、記録を作成し、3年間保存しなければなりません。
年次有給休暇を年に10日以上付与される社員に対しては、そのうち「5日」は、会社側から時季を指定して年次有給休暇を取得させることが義務付けられました。
ただし、自ら時季指定をしてまたは計画的付与により、社員が取得した年次有給休暇の日数は、企業側から時季指定すべき「5日」から除くことができます。
<改正のイメージ>
企業は、社員ごとに、年次有給休暇を取得した時季、日数および基準日を社員ごとに明らかにした書類(「年次有給休暇管理簿」)を作成し、3年間保存しなければならないこととされました。
フレックスタイム制とは、「清算期間」で定められた所定労働時間の枠内で、社員が始業・終業時刻を自由に選べる制度です。
これまで、清算期間の上限は1か月以内とされていましたが、より柔軟な働き方を可能とするため、清算期間の上限を「3か月」に延長することされました。
例) 改正後は、「7・8・9月の3か月」の中で労働時間の調整が可能となるため、子育て中の親が8月の労働時間を短くすることで、夏休み中の子どもと過ごす時間を確保しやすくなる。
ただし、清算期間を1か月超え3か月以内とする場合には、各月における労働時間の長短の幅が大きくなることが生じ得ることなどから、
といった新たな規制が設けられました。
高度プロフェッショナル制度は、専門的な職業の方の自律的で創造的な働き方を推進することなどを目的として創設されました。
この制度は、一定の年収(1,075万円以上)を有する労働者が、高度の専門的知識を必要とするなどの一定の業務(金融商品の開発、コンサルタントの業務など)に従事する場合に、労働基準法における労働時間、休憩、休日、深夜の割増賃金の規定を適用除外とするものです。
労働者(社員)への負担が大きくなるおそれが高い制度ですから、その要件は厳格なものとなっています。
なお、この制度の対象者については、労働時間等の規定が、深夜の割増賃金も含め除外されることから、「労働時間」という概念がありません。
しかし、健康管理の観点から、企業は「健康管理時間(原則、在社時間+社外で働いた時間)」を把握しなければならないこととされています。
労働契約を締結する際には、労働基準法に規定する所定の労働条件を社員に明示する必要があり、特に重要な労働条件(絶対的明示事項から昇給を除いたもの)は、「書面を交付」して明示することとされています。
この書面の交付による明示の方法について、社員が希望する場合には、書面の交付によらず、次の方法とすることができることとされました。
これまでは、主に、未払い賃金の防止(割増賃金の適正な支払い)の観点から、政府のガイドラインなどで、社員(裁量労働制が適用される者や管理監督者を除く)の労働時間の状況を客観的な方法で把握することとされていました。
改正後は、社員の健康管理の観点から、すべての社員(裁量労働制が適用される者や管理監督者も含む)の労働時間の状況を客観的な方法その他の適切な方法*で把握するよう労働安全衛生法で義務付けられました。
*客観的な方法その他の適切な方法
…タイムカードやICカードの記録、パソコンの使用時間の記録などの確認
「勤務間インターバル」制度とは、働く人の十分な生活時間や睡眠時間を確保するため、1日の勤務終了後、翌日の出社までの間に、一定時間以上の休息時間(インターバル)を確保する仕組みです。
この制度を導入することが、労働時間等設定改善法において、企業の努力義務とされました。